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東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)118号 判決 1979年4月24日

原告

東洋テルミー株式会社

右訴訟代理人弁理士

鈴江武彦

外一名

被告

大塚正士

右訴訟代理人弁護士

吉原省三

外二名

主文

特許庁が、昭和五三年六月一二日、同庁昭和四七年審判第四九八号事件についてした審決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実および理由

第一当事者の求めた裁判

原告は主文同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者間に争いのない事実

一特許庁における手続の経緯

被告は、登録第八五四二四八号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。本件商標は、別紙一のとおり、「ハビタドリンク」の片仮名文字を横書きして成り、第二九類「茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料、氷」を指定商品として、昭和四二年五月一日に登録出願され、昭和四五年四月二二日に登録された。

原告は、昭和四七年一月二一日、特許庁に対し、被告を被請求人として、本件商標につき登録無効審判を請求し、同庁昭和四七年審判第四九八号事件として審理されたが、昭和五三年六月一二日、「請求人の申立は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同月二一日に原告に送達された。

二先願の引用商標について

引用商標は、別紙二のとおりの構成よりなり、第二九類「茶、コーヒー、ココア、清涼飲料、果実飲料、氷」を指定商品として、本件商標出願前の昭和四〇年一二月三〇日に登録出願されていたが、本件商標出願、登録後の昭和五二年三月一七日に至り、登録第一二五九一六七号としてその登録がなされたものである。

三審決理由の要点

本件商標は前記一のとおりのものであり、引用商標は前記二のとおりのものである。

そこで以下において両者の類否について判断する。

まず、両者の態様は前記のとおりであるから、両者は外観上においては互に類似の範囲を脱する差異を有するものと認められる。

次に称呼の点を比較する。

本件商標は片仮名文字「ハビタドリンク」の文字の横書きして成るものであるが、その構成文字中「ドリンク」の文字は指定商品について品質表示と認められる「飲料」または「飲料水」の意味で一般に親しまれている英語の(DRINK)を片仮名文字で表示したものであることは、取引の実際に照らして明らかである。従つて、自他商品の識別商標としての顕著な部分は前半部の「ハビタ」の部分にあると認められ、この部分より「ハビタ」の称呼を生ずるものと判断するのが取引の実際に照らし相当である。

一方、引用商標においては、構成中の図形の部分はこれを何んと指称すべきか極めて不明確な図形であるから、構成中の「ビタドリンク」の片仮名文字の部分より称呼が生ずるとみるのが相当である。

しかし、「ビタドリンク」の文字部分においては、「ドリンク」の部分が「飲料水」「飲物」を意味することは明らかであり、この部分は商品の品質を表示するものと認められるから、「ビタ」の部分が自他商品識別標識として顕著な部分と認められ、この部分より「ビタ」の称呼を生ずるものと判断するのが相当である。

そこで、本件商標より生ずる「ハビタ」と引用商標より生ずる「ビタ」の称呼を比較すると、前者は「ハビタ」と称呼される音構成であるに対し、後者は「ビタ」と称呼される二音構成であり、しかも、それぞれの称呼は並列的に称呼されるものである関係上、両者の語頭音の差異は全体としての称呼に及ぼす影響は極めて大きい。

従つて、両者を夫々全体として称呼するときは聴感著るしく相異し、互いに明瞭に聴別し得る差異があるものといわなければならない。

観念の点についてみるに、本件商標と引用商標とは共に何等意味のない造語と認められる以上、観念においても互に異例のものと認められる。

結局、本件商標と引用商標とは外観、称呼、観念のいずれの点においても相紛れることのない非類似の商標と判断するを相当とする。

請求人が、本件商標に類似する引用商標を商品栄養飲料について使用し、取引及び需要者の間に広く認識された周知著名な商標であると主張するも、この点については、単なる主張にとどまり何等の立証を伴なわないものであるから、この点についての主張は認めることができない。

したがつて、本件商標の登録は、商標法八条一項、同法四条一項一〇号及び同一五号の規定に違反してなされたものとして、これを同法四六条一項一号の規定によつて無効とすべき限りではない。

第三争点<省略>

第四当裁判所の判断

原告の商標法八条一項に関する主張について

本件商標が、前記第一、一のとおりのものであり、引用商標が前記第一、二のとおりのものであることは当事者間に争いがない。

まず本件商標からどのような称呼が生ずるかを検討する。本件商標は、「ハビタドリンク」の片仮名文字を同大一連に横書きして成るものであるが、このうち「ドリンク」の文字は、飲料または飲料水の意味で一般に知られている英単語の「DRINK」を片仮名文字で表わしたものであると認められるから、本件商標標が表示する商品の性質を示すものであり、それ自体に自他商品の識別力はないといつて差支えない。一方本件商標のうち、「ハビタ」の文字は、それ自体特別の意味を持たない造語と認められ、必ずしも「ドリンク」の語と必然的に結びつくものではないから、この部分に自他商品の識別力があると一応ということができ、したがつて、取引の実際においても、本件商標が「ハビタ」と略称されることがありうることは否定できない。しかし本件商標は、「ハビタ」と「ドリンク」の部分に分離して記載されているのではなく、七音の片仮名文字が同大一連に横書きして成るものであるから、「ハビタドリンク」と一連に称呼するのが自然であり、かつそのように称呼しても特に冗長に亘る訳ではない。そうすると本件商標は取引の実際において、「ハビタドリンク」と一連に称呼される場合が多いということができる。

次に引用商標の称呼について検討する。引用商標の「ビタドリンク」の片仮名文字を同大一連に横書きした部分のうち、「ドリンク」の文字には前記の理由で自他商品の識別力はない。一方「ビタ」の部分は、<証拠>によれば、飲料等においてビタミン入りを連想させる語としてしばしば使用されるものと認められ、商品の品質効用を示すものといえるから、やはり識別力は乏しく、「ドリンク」の語と結合することにより、引用商標は、全体としてビタミン入り飲料の印象、ひいて識別力を生じるということができる。そうすると引用商標は、取引の実際において、「ビタドリンク」の片仮名文字を同大一連に横書きした部分から、「ビタドリンク」の称呼が生ずるというべきである。したがつて、本件商標から「ハビタ」、引用商標から「ビタ」の各称呼のみが生ずるとし、これを対比して両商標を非類似とした審決は、判断の前提において誤りがあるといわなければならない。

そして、本件商標から生ずる「ハビタドリング」、引用商標から生ずる「ビタドリンク」の各称呼を前提として対比するとすれば、両者の音数、相違する音の質、全体の印象、取引の実情等をも考慮した場合、一概に両者が類似しないとはいいがたいから、審決の前記誤りは結論に影響を及ぼすおそれがあるといわざるをえない。そうすると、本件審決は違法であつて、取消を免れない。

(小堀勇 小笠原昭夫 石井彦壽)

別紙第一

別紙第二

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